毎日二時間弱のリハビリ訓練を終えると、各自廊下で衰えた足を鍛えるために訓練に励む者や、気のあった者同士休憩室で時間を潰す人ありで、就寝時間まで持て余す日が続きます。
私は病棟内ではどちらかというと陽気な患者グループの方に入っていて、その真逆のどん底オーラを出している人が近づいてくると逃げ回る方でした。
その陽気なグループの中心に、ワタリさん(仮名)という姉御肌の50代前後の美人がいて、不思議なことには誰が見ても見舞客にしか見えない人でした。
彼女は血圧が正常にもかかわらず左半身麻痺で入院となり、医者も原因が分からない怖いものを背負っていたんですが、病気に負けない強さがあって魅力がありましたね。
ある日突然「ワタリさーん、あなたの元気を私に分けてください」と、誰彼無しに愚痴をいうおばさんに後ろから肩を撫でられて、さすがの元気印の彼女もそれ以降は、その女性の影が視界に入ると怖がって逃げていました。
患者同士のもたれ合いは必要な時もあるかも知れませんが、一方的な寄りかかりは専門のセラピストではない者には辛いものです。
それでなくとも皆自分のことで精一杯、陽気を装うことも病気に対して立派な防御法のひとつじゃないでしょうかね。