「野生動物撮影ガイドブック
」は 友人の動物カメラマン、飯島正広氏の最近の著作だ。 16mmシネカメラの時代から、何人かのカメラマンと仕事をともにしてきたが、カメラマンというのは『くふうの人』というのが私の印象だ。 中でも、飯島氏はその最たるものだろう。 |
目次を見ると、サブタイトルに「機材選びから撮影テクニック、動物の探し方まで」とあるように、動物を撮影するのに必要な知識がてんこ盛りだ。
|
しかし単なる技術解説書でないのは次の一節をみれば明らかである。ちょっと長くなるが「動物の目線の高さで撮る」から引用しよう。
私は動物と対峙したとき、できうるかぎり動物の目線の高さから撮影することを心がけている。なぜ目線の高さが大事かというと、上から目線ではどうしても動物を見下ろすアングルになってしまい、動物との間に心の距離ができてしまうと感じるからだ。しかし相手が野生の猛獣のときなどは、それが無理なときはある。
ネパールのチトワン国立公園でインドサイの撮影をしたときのことだ。何回かゾウに乗ってサイの撮影をしたが、どうもしっくりいかない。最初は「日本から来た写真家はなんて馬鹿なことを抜かすんだ、危険すぎる」という顔をしていた監督官も、「何があっても自己責任だよ!」と念を押され、ゾウから降りてサイの目線で撮影してもよいという特別の許可を得た。
なぜ監督官が躊躇したかというと、サイの角は爪と同じ角質だが、牙は車の鋼板でさえ穴があくという危険この上もない鋭利なものだということをネパール人は皆知っているからだ。
インドサイの目線と同じ高さで撮影するためには、安全(?)を考えると、ゾウから降りてゾウの首の下で撮影するしかなかった。もしもサイが襲ってきたら、ゾウが前に出て防御してもらうという作戦だ。
さっそくサイを見つけると、サイまで20mくらいまで静かに近づき地面に降りてみた。サイの目はあまり良くないので音さえ立てなければ近づける。ファインダーを覗きながらいつ襲ってくるかと思ったが、ファインダーに飛び込んできた光景は想像していたとおりのサイの姿だった。サイの生息地は大湿地で、もちろん歩いて行くことは危険である。ゾウ使いの卓越したゾウあしらい、そして動物を探すその能力のおかげで、動物の目線の高さで撮ることの重要さを改めて教えてもらった。
どうです。著者の動物を撮影するときの気迫と緊張感が、ひしひしと伝わってくるでしょう。
どこから読んでも楽しいオススメの一冊である。
ただし、折角良い内容なのに、キャノンのEOSがESOになっていたり、校正ミスが見受けられる。出版社の猛省を促したいところである。