開高健『もっと遠く!』は、アラスカをふりだしに北米大陸と南米大陸を釣竿を片手に車で縦断した記録である。週刊朝日に連載されたため、そのスタッフたちも同行している。
第三章「悲しみよこんにちは」には、オレゴン州のキャンプ場での次のようなエピソードがでている。
(前略) 薄暗い中をビンが途方に暮れた様子でやってきて、ぶどう酒の栓抜きがみつからないがどうしたものかという。町のスーパーで食料品を買いこんだときにウイスキーを買うのを忘れてドジを踏んだけれど、誰かがぶどう酒を一本買った。今夜の酒はそれしかない。だのに栓抜きがないというのである。酒好きの彼はいらいらして不安になり、そわそわしているが、それが声に出ている。 栓抜きがどこにあるか私は知っていたが黙っていた。たぶんスチールが釣れなくて腹をたてていたのと疲労のせいであろう。ちょっとビンを踊らせてそれを見物してみようという気になった。 (中略) ビンの眼が真摯にいらだって怒った。針の尖端のようにチカチカとがって光るのが見えた。彼は低く唸ったり舌打ちしたりしてうろうろ歩きまわり、買物袋をかきまわしたり、バック・パックにとびついたりした。そのいらいらが感染して全員が右往左往しはじめた。十分にそれが煮えたつまで鑑賞してから私はたちあがり、タオル一枚と五分間で青い尼さん(筆者注ブルーナンというワイン)を抜いてみせた。タオルをぐるぐると厚く瓶の底に巻きつけ、瓶を水平に持ったままで、軽く、規則正しく、トン、トンと、木の幹にぶっつけるのである。そうすると瓶のなかの酒が右へいったり左へいったりしてピストン運動をし、しばらくするとどんな固いコルク栓でもスルスルとおしだされてくる。 (後略) |
本を読んだときは、本当に抜けるのかなと思っていたが、ナルホドこういうことだっったんですね。五分間とあるからそう簡単には抜けないわけだ。試してみる方は、自己責任で!